不倫がいけない理由
家父長制と姦通罪
日本の場合、昭和22年に刑法が改正されるまで、刑法第183条に「姦通罪」が規定されていた。また、妻の姦通は民法上の離婚理由だった。 すなわち、妻が夫以外の男性と肉体関係を持つと、夫から離婚請求が可能となり、妻は姦通罪で処罰された。
また、夫には姦通罪の適用がなく、既婚女性と肉体関係を持ち、相手の女性の配偶者から告訴された場合にのみ、 例外的に「姦淫罪」で罰せられたにすぎない。相手が未婚女性であるかぎり、妾を何人かこってもお咎めなしで、離婚理由にもならなかった。
民事裁判では、夫から妻の姦通相手に対する損害賠償請求が認められた。妻の姦通は「父権」の侵害とみなされたからだった。 つまり「妻が夫以外の男性とは関係をもたないこと」「妻の性的な魅力・能力を独占すること」が夫の権利とされたのである。 これは妻を夫の所有物とする考え方に他ならない。
妻の姦通は家父長である夫の名誉を傷つける。妻が浮気相手の子供を産むことは、家督相続の面で家制度の根幹を揺るがす。 ゆえに姦通は非難の対象となる。 すなわち、夫婦以外の男女の結合が倫理的・社会的に非難されるべきかどうかを判断する道徳的基準は、家父長制にあったのである。
戦後の離婚と夫婦観
それでは、戦後はどうなのか。
昭和21年、新憲法が制定され、男女平等の世の中となった。 民法の改正によって相続や婚姻関係においても男女の平等がうたわれ、刑法の姦通罪も削除された。
現在の民法下の裁判では、 不倫相手の行為は「婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益」 を侵害するものとして損害賠償(慰謝料)請求が認められている。 また、不倫に伴う夫婦間での慰謝料請求は、夫婦が互いに負っている「貞操義務」の違反が根拠とされる。
つまり、一夫一婦制の下で夫婦が結婚生活を平和に送るためには、互いに貞操を守ることが必須である。 不倫と知って肉体関係を結んだ者は、このような平和な夫婦生活を送るという権利または人格的な利益を侵害したことになる。 だから不倫は「不法行為」であり、配偶者の権利を侵害し、精神的苦痛を与えた不倫相手は、慰謝料を支払う必要があるということになる。
現在の憲法は第9条を筆頭に「平和憲法」と称されるが、国家間に限らず、 夫婦間においても「平和」の重視が不倫を避難する根拠となったのである。
この結果、例えば夫婦関係が破綻した後に不倫関係が始まった場合には、保護するべき「婚姻共同生活の平和」が存在しないので、 不倫は配偶者の利益の侵害にはならず、不倫相手は慰謝料を支払う必要がない。 またこの場合には、夫婦間でも不倫についての慰謝料の支払義務は生じない。
配偶者の責任と不倫相手の責任
現在の判例が、不倫をした夫や妻だけでなく、不倫相手にも慰謝料の支払義務を認めていることには批判も強い。
不倫によって配偶者が精神的苦痛を被ることは確かだとしても、第一義的な責任は、貞操義務を破った夫や妻の側にある。 これを横において、不倫相手ばかりを攻撃するのはいかがなものか。 妻または夫の立場にいるというだけで、慰謝料を請求する根拠を与えているいるのと同じではないか。 公の機関(裁判所)が当事者である夫婦以外の第三者の恋愛問題に立ち入るべきではない、という考え方だ。
この考えにはそれなりの説得力があり、判決で認められる不倫相手の慰謝料が、不倫をした配偶者が支払う慰謝料より少ないのは、 こうした意見への配慮がなされているようだ。
夫婦の平和は、お互いの積極的な努力のうえに成り立っている。 もし、第三者の干渉によって平和が乱れたとすれば、干渉を許した当事者こそが避難されるべきである。
宗教的な戒律が人の生活を縛ることが少ない日本人にとって、生活の規律であった道徳や常識が著しく相対化した現在、 何が倫理的に良くて、何が悪いのかを判断することが難しくなっている。 「不倫だって恋愛の一種。幸福を追求する権利(憲法第13条)の問題。」と主張する人もいることだろう。
不倫は配偶者を裏切ることになるのでいけない。しかし、それは裁判所のような国家権力が介入してくるような問題なのだろうか。
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